カブトムシ

『モリオカえほんの森保育園』開園を迎えて 後編

『モリオカえほんの森保育園』開園を迎えて 後編

2022年09月30日

 公募設置管理制度(Park-PFI)により、民間主導の都市公園経営が始まる盛岡市中央公園で、その第一弾となる「モリオカえほんの森保育園」が開園しました。開園にあたり、建築設計を担当して下さった atelier meie 一級建築士事務所 の木村暁さん、木村彩さん、園庭デザインを担当して下さった株式会社キタバ・ランドスケープの斉藤浩二さん、斉藤隆夫さん、施工を担当して下さった有限会社杢創舎の澤口泰俊さんにお話を伺いました。

空間の中心に据えられた薪ストーブ
自然との共生を目指した園庭

── 薪ストーブがあることが実に印象的ですが、どのような経緯で設置することになったのですか?

木村暁 (atelier meie) :

 小さな子どもがいる場所に薪ストーブを入れるのは危険だと思われる方もいらっしゃいますが、濵田さんから「薪ストーブを入れられたらいいな」と言われたのが始まりでした。わたしたちもそのアイデアは素晴らしいと共感し、空間の中心にみんなで火を囲めるスペースを設けたいと思いました。わたしたちは住宅や別荘でも薪ストーブを入れることが割と多いのですが、今回は火が付いている時には子どもたちが近寄れないように“イングルヌック (*1)”という小さなスペースを設けて、その入口に必要なときに引き出せる引戸を設けました。火が付いている時にはこの引戸を閉めることで、子どもたちは薪ストーブに近寄ることができませんが、格子戸になっているので、中で火が燃えている様子を見ることができます。

 岩手の冬は長くてとても寒く、暗い日も多いので、外で遊べない日も多いと思いますが、薪ストーブがあることによって、火の傍に集まって、絵本を読んだり、読み聞かせをしてもらったり、南部鉄瓶や鍋を薪ストーブの上に置いたり、冬ならではの楽しみ方をしてもらえたらと思っています。

── 園庭にはどのようなこだわりがありますか?

斉藤隆夫 (株式会社キタバ・ランドスケープ) :

 2年前に初めて現地を見たとき、ここの場所一帯にすごく密などんぐりの林があったので、間伐や移植をして公園全体に広げていくようなことができたらと考えました。この場所がまず公園整備をしていく中で、最も大切なところではないかなとそう感じたのです。園庭を設計する上では、可能な限り既製品の遊具など人工的な要素は少なくして、子どもたちが自然なものに触れられることと、できるだけもともとこの場所にある要素で作っていくということを大事にしました。例えば、新しい木を入れずにどんぐりの木を敷地内で配置し直したり、入口の石も公園にあった建物の基礎の石を利用したりしました。他にも、間引いたどんぐりの木のチップを使って道を造るというようなことも行っていきたいと思っています。園庭にある菜園や砂場は、一般的に基礎とか構造体を造って外と切り分けるのですが、あえて境目がないようにしています。しばらくすると植物が侵食してくるかもしれませんが、今後の管理にも携わってくださる仙北造園さんと一緒に話し合いながら、人工的なものと自然なものの境目をぼやかしてそれらが共生していくようにできたらと考えています。

── 園庭のブランコが印象的ですね。

澤口泰俊 (有限会社杢創舎 代表取締役) :

 こちらの園を建てる時に、どうしても伐採しなければいけないどんぐりの木がありました。それをそのまま捨てるのは忍びなくて、車椅子の大工に「こんなブランコを作って」とスケッチを渡したんです。そうしたら本当に車椅子に乗ったまま作ってしまいました。しかも作るときに、園児たちが指を挟まないようにベンチは一個一個自分で指を入れて、少しずつ削って作っていました。

 ブランコの高さも最初はもうちょっと高くて大人しか座れなかったのですが、園児が座りやすいようにロープを緩めて下げるなどの工夫をしたようです。すべて車椅子での作業で、届かない場所などは足で踏ん張って伸び上がってやっているようにわたしには見えたので、その内、彼は立ち上がって歩くでのはないかと思ったくらいです 笑。

── 実際、園舎が完成してどのように感じましたか?

斉藤浩二 (株式会社キタバ・ランドスケープ 代表) :


 開園の1ヶ月ほど前に公園の事業者会議で実際見たのですが、イメージしていたよりも立派だという印象を受けました。これは悪い意味ではなく綺麗すぎると。子どもたちに「汚すんじゃない!」と言いたくなってしまうのではないか、と心配してしまうくらいです 笑。

 あまりに綺麗だからわたしは仏壇の話を思い出しました。新しい仏壇を買うと、汚してはいけないと思ってしまうからまず墨で汚す、という話。いや、実際は汚さないで、汚すフリをするのですが。「汚れたから普通にたくさん使いなさい」というような意識で少し園舎も汚しても良いかもしれませんね 笑。それくらい綺麗な保育園だと思います。

木村暁 (atelier meie) :

 わたしたちも子どもたちの手垢がついて完成だと思っているので、ぜひたくさん汚して欲しいと思っています 笑。

斉藤浩二 (株式会社キタバ・ランドスケープ 代表) :

 園内と同じように外の空間も綺麗ですが、おそらく数ヶ月経過したら荒れてくると思います。それで良いのだと思って欲しいです。綺麗にして虫も来ないような庭ではなく、いろんな虫が来て、子どもが虫に刺されて大騒ぎになったり、それくらいワイルドな空間になっていったら良いのではないかと思います。

どんぐりの木、カブトムシ、絵本
いろいろな本物に直に触れて
岩手を代表する素晴らしい人材に育って欲しい

── 保育園を利用する子どもたち、親御さんにメッセージをお願いします。

濵田和人 (株式会社みんなのみらい計画 代表取締役) :

 開園の前日、仙北造園さんと玄関前を掘り起こしていたところ、大量のカブトムシの幼虫が出てきました。数匹ではなく、数百匹単位です。きっと来年の夏には立派なカブトムシがどんぐりの木にくっ付いていると思います。取り放題ですので、楽しみにしていてください。

澤口泰俊 (有限会社杢創舎 代表取締役) :

 木には節というものがあります。外壁とか床に使われる木は、節がなくとても綺麗ですが、本物の木ではあり得ないこと。本来、樹木には枝があって、節があるところは枝があった痕です。その枝の先には葉があって、太陽の光を浴びて光合成をしながらわたしたち人間に酸素を供給してくれる。そのような部分が節です。

 いま、わたしたちがここで吸っている酸素は、もしかしたら同じ木が作ってくれたものなのかもしれません。ですので、「木には節が多いんだよ」ということを子どもたちにも覚えて欲しいと思っています。そして、そうした経験を通じて、岩手の山や木を大切にする子どもたちがたくさん育っていってもらえれば嬉しいです。

 もうひとつ、アカマツはパイオニアツリーと言うんですが、一万年前、荒れた大地に一番最初に育った木だと言われています。アカマツの下でいろんな雑木が育って森林を形成して、いまのわたしたちが暮らす土壌が作られた。そのような意味で、この保育園から今後の岩手を代表する素晴らしい人材が育って欲しいと思っています。

斉藤浩二 (株式会社タバ・ランドスケープ 代表) :

 これから公園を作っていく工事の段階では殺伐とした期間もあると思いますが、きっと皆さんに喜んでもらえるような場所が出来上がると思います。この場所は民間の事業者が集まりその資金の中で作っていく訳ですが、これが誰のものかということを考えると、それはやはり盛岡市民のものです。ですから、多くの方に来ていただいて、何かあればご意見をお聞きしたいと思っています。そして、これからどんぐりの木をなるべく早めに公園全体に移して、どんぐりが中央公園の向こう側まで続くようにしたいと考えています。その時には、一緒に移植を手伝っていただくような形で関わっていただき、自分たちの公園ができるということを実感してもらえたら嬉しいです。

木村暁 (atelier meie) :

 杢創舎の職人さんたちが最後まで熱心に床を触りながらささくれがないか確認してくださったり、造作家具の角も全部触りながら丁寧にやすりをかけてくださったり、そうした細やかなところまで一生懸命対応してくださったので、ぜひ、子どもたちにもどんどん手で触れて、経年変化していく過程も含めて本物の天然素材の良さを感じてもらえたらと思っています。

 それから、本当に些細なことかもしれませんが、アーチ状の天井に穿たれた天窓から入る自然光の美しさや、時間帯によって光と影が移り変わる様子だったり、そういったことがなにかしら子供たちの感覚に影響を与えてくれたら嬉しく思います。

 また、えほんの森という名前の通り、園のさまざな場所で絵本を読むことを意識しながら設計をしてきました。薪ストーブのところにも子どもたち用のベンチがあったり、縁側も階段になっていたり、いろんな場所で子どもたちが絵本を広げて読むことができます。それぞれのお気に入りの場所で、たくさん絵本を読んで欲しいと思っています。

→ 前編はこちら

*1 イングルヌック:
暖炉脇の小さくて暖かな場所

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